中東にも大型カジノ統合型リゾート(IR)が誕生する。
世界的なカジノ・ホテル企業である米ラスベガスのWynn Resortsが、アラブ首長国連邦(UAE)のラス・アル・ハイマに建設中の「Wynn Al Marjan Island」が、2027年9月の開業を目指している。
日本人にはまだ馴染みのない名前だが、このプロジェクトは世界のカジノ業界が注目する大型案件だ。長年ギャンブルに対して厳格だった中東地域において、事実上初となる正式なカジノIRが登場するためである。
Wynn Al Marjan Islandは「ドバイカジノ」と通称されることもあるが、実際の所在地はドバイではない。UAEを構成する7つの首長国のひとつ、ラス・アル・ハイマの人工島「アル・マルジャン島」に建設される。ドバイ国際空港からは車で約50分の距離だ。
このリゾートは単なるカジノ施設ではない。超高級ホテル、カジノ、レストラン、ラグジュアリーブランドのショッピング、会議・展示施設、劇場、ビーチクラブ、マリーナ、専用ビーチが一体となった大型統合型リゾートである。
総開発費はWynnの投資家向け資料によると約51億ドルとされている。日本円に換算すると約7,500億円規模(1ドル=147円換算)の超大型観光開発事業だ。
ホテルの規模も巨大だ。最新の公式資料によると、客室、スイート、ヴィラを含め約1,530室が設けられる。中心となる建物は70階建ての超高層ホテルタワーで、最終的な高さは約352mに達する見込みだ。完成すればラス・アル・ハイマの代表的なランドマークとなるだろう。
最も関心を集めているのはカジノだ。
Wynnが公開した資料によると、カジノのゲーミングエリアは約22万5,000平方フィート(約2万900平方メートル)の規模で計画されている。ただし、スロットマシンやテーブルゲームの最終的な設置台数はまだ公式に発表されていない。
重要なのは、カジノ面積がリゾート全体のほんの一部に過ぎないという事実だ。Wynnはカジノだけを前面に押し出すのではなく、高級観光客がホテルに滞在し、食事をし、ショッピングを楽しみ、ショーを観て、ビーチやマリーナを利用するという全体的な消費構造を設計している。
リゾート内には22以上のレストラン・バー・ラウンジ、高級ショッピングエリア、約1万3,500平方メートルの会議・展示・宴会施設、専用劇場、ナイトクラブ、ビーチクラブなどが設置される予定だ。ビーチにはサンベッドやカバナ、高級バンガローが整備され、マリーナにはヨットの停泊施設も用意される。
このため、Wynn Al Marjan Islandは「カジノがあるホテル」というよりは、「カジノを中核収益施設として抱える超高級海洋観光都市」に近いと言える。
このプロジェクトが特別な理由は他にもある。UAEが商用ゲーム規制機関である「GCGRA」を設置し、Wynn Al Marjanの運営法人を商用ゲーム施設ライセンス事業者として登録した点だ。これはUAEにおいてカジノを制度の枠内に取り込む初の事例として受け止められている。
Wynnはこの事業をラス・アル・ハイマの現地開発機関であるMarjan、RAK Hospitality Holdingと共に推進しており、合弁法人の株式40%を保有している。
Wynnが予測する市場の潜在力も大きい。投資家向け資料の中でWynnは、UAE全体のカジノ市場における長期的なゲーミング売上規模を年間30億〜50億ドルと想定した。Wynn Al Marjan Islandが正常な運営段階に入れば、年間カジノ総売上が10億ドルを超える可能性があるという独自の見通しも示している。
もちろんこれは事業者の長期予測であり、実際の業績を保証する数値ではない。しかし、世界的なカジノ企業が中東市場をいかに大きく捉えているかを示している。
ラス・アル・ハイマ側も、このプロジェクトを単なるカジノ事業とは見ていない。観光当局は2030年までに年間観光客350万人の誘致を目標に掲げている。Wynnの開業に合わせて、空港、道路、高級ホテル、不動産開発も並行して進められている。
つまり、カジノを一つ建てるのではなく、カジノをきっかけに航空、ホテル、観光、不動産、ショッピング、MICE産業を共に成長させるという戦略だ。
Wynn Al Marjan Islandは、2030年の開業を目指す日本の大阪IRと共に、アジア・中東のカジノ市場の勢力図を塗り替えうる代表的なプロジェクトとして挙げられる。
両事業の共通点は、既存のカジノを少し改装するレベルではなく、最初から次世代型統合リゾートとして設計されている点だ。カジノ、ホテル、ショッピング、エンターテインメント、MICE、デジタル顧客管理、高級サービスをひとつの顧客体験として統合する手法である。
この点は、韓国の江原ランドにも示唆するところが大きい。
江原ランドもカジノ、ホテル、コンドミニアム、ゴルフ場、スキー場、ウォーターワールドなど多様な施設を備えている。しかし重要なのは施設を保有しているかどうかではなく、顧客がそれらの施設をひとつの旅行体験として自然に利用できるように設計されているかどうかだ。
今後のカジノ競争は、スロットマシンやテーブルの台数だけで説明することは難しい。顧客一人がカジノに入る前から、滞在中、そして去った後まで、旅行全体の消費を誰が設計し管理するかが核心となっている。
Wynn Al Marjan Islandはその変化を象徴的に示している。
カジノはもはやゲーム場としてだけ存在するのではない。高級ホテル、美食、ショッピング、エンターテインメント、ビーチ、マリーナ、国際会議が結合された観光プラットフォームへと進化している。
2027年にUAEのラス・アル・ハイマで扉を開くWynn Al Marjan Islandは、中東初級のカジノIRという象徴性を超え、世界のカジノ産業がどこへ向かっているのかを示す重要な事例である。
中東の人工島から始まるカジノ統合型リゾートの競争は、遠い国の話ではない。2030年の大阪IR、東南アジアのカジノ市場、そして江原ランドの未来の競争力とも繋がる流れである。
カジノ産業の次なる競争はすでに始まっている。
その競争の核心は、より大きなカジノではなく、より長く滞在させ、より多く消費させる「目的地の力」である。


